2010年1月アーカイブ

 マンション管理組合の総会決議により行われた、自ら専有部分に居住しない組合員が組合費に加えて住民活動協力金を負担すべきものとする旨の規約の変更について、区分所有法律31条1項後段による組合員の承諾を要しないとする最高裁判所第三小法廷平成22年1月26日判決が、昨日の朝刊各紙で大きく報道された。

 本事件は、マンションの管理組合であるXが、その組合員である亡Aの相続人であるYらに対し、集会決議により変更された規約に基づき、自らその専有部分に居住しない組合員が負担すべきものとされた月額2500円の「住民活動協力金」の支払を求めた訴訟である。Yは、上記の規約の変更は、区分所有法31条1項後段にいう「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当し、亡Aの承諾がないから無効であるなどと主張して、Xの請求を争ったものである。
 事件の舞台になったのは、昭和40年代に大阪市住宅供給公社が建築、分譲した14階建ての建物4棟からなる総戸数868戸のマンション。分譲後20年を経過したころから、空室状態となっている物件や第三者に賃貸される物件が増加し、平成16年ころには、多数の不在組合員(専有部分の総数約170戸)が生じていた。そのため、居住組合員の中には、不在組合員が理事等の役員に就任せず、負担が居住組合員に偏っていることなどに不満を持つ者が現れ、不在組合員に運営に係る負担の一端を担わせる方法として、「協力金」を負担を決めた。ほとんどの組合員が支払いに応じたものの、亡Aを含む5名(専有部分の総数12戸)がその支払を拒否し本件の事件になったものである。
 第一審判決はXの請求を認めたが、原審判決は、住民活動協力金を不在組合員と居住組合員との間に格差を設けて負担させる場合、不在組合員であるがために避けられない印刷代、通信費等の出費相当額を不在組合員に加算して負担させる程度であればともかく、その全額を不在組合員のみに負担させるべき合理的な根拠は認められないので、本件規約変更は、区分所有法31条1項後段にいう「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすとき」に該当し、亡Aの承諾がないから無効であるとして、Xの請求を棄却した。
 しかし、最高裁判所は、上に述べたとおり、原判決を破棄し、Xの請求を認める第一審判決を正当とした。その理由は、次のとおりである。

 まず、区分所有法31条1項後段の「規約の設定,変更又は廃止が一部の団地建物所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」について、従来の最高裁の判例(最二小判平成10・10・30民集52巻7号1604頁)に従い、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の団地建物所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該団地建物所有関係の実態に照らして、その不利益が一部の団地建物所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうとする。
 そして、本件では、マンションの管理組合を運営するに当たって必要となる業務及びその費用は、本来、その構成員である組合員全員が平等にこれを負担すべきものであり、その業務分担が困難な不在組合員に金銭的負担を求めて不公平を是正しようとしたことには、その必要性と合理性が認められないものではないとする。そして、組合費と住民活動協力金とを合計した不在組合員の金銭的負担は、居住組合員が負担する組合費が月額1万7500円であるのに対し、その約15%増しの月額2万円にすぎないことから、本件規約変更の必要性及び合理性と不在組合員が受ける不利益の程度を比較衡量し、本件規約変更は、不在組合員において受忍すべき限度を超えるとまではいうことができないので、区分所有法31条1項後段にいう「一部の団地建物所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当しないとした。

 「規約変更の必要性及び合理性と不在組合員が受ける不利益の程度の比較衡量」が判決のポイントである。本件では、規約変更の必要性・合理性についての上記判断が必ずしも説得的かどうかは問題なしとしないが、不利益の程度はそれほどでもないと思われるので結論については異論はない。同種事例は結構あると思われるので、貴重な先例である。

 

 株式会社シャルレの元取締役に対して株主代表訴訟が提起された旨のニュースリリースに接し、その内容が気になっていたが、先般某弁護士先生(お名前は伏せさせていただく。)から、関係資料と共に本事件の論評をしたサイトを教えていただき、早速拝読させていただいた。
 シャルレのMBOの顛末について論評されているサイトは、坂口徳雄弁護士のBLOGである。神戸地裁に提起された株主代表訴訟の訴状も紹介されている。

 MBOについては、すでに、経済産業省から「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」(平成19年9月。以下、「本指針」として引用する。)が公表されている。これは、MBOの問題点を認めつつ、いわゆるガイドラインとして、「企業価値の向上及び株主利益への配慮のための公正な手続確保を目的とした、MBOに関する公正なルールのあり方を提示する」(指針2頁)というものである。
 MBOの問題点については、指針4頁に、「本来、企業価値の向上を通じて株主の利益を代表すべき取締役が、自ら株主から対象会社の株式を取得することとなり、必然的に取締役についての利益相反的構造が生じる。そして、取締役は対象会社に関する正確かつ豊富な情報を有していることから、MBOの場合には、株式の買付者側である取締役と売却者側である株主との間に、大きな情報の非対称性も存在することとなる。」との指摘がある。
 これに対しては、「透明性・合理性確保のための枠組み」のもとで、「意思決定過程における恣意性を排除」することが必要とされ、そのための実務上の対応として「(社外役員が存在する場合には)当該役員、又は独立した第三者委員会等に対するMBOの是非及び条件についての諮問(又はこれらの者によるMBOを行う取締役との交渉)、及びその結果なされた判断の尊重」(指針14頁)が重要と説く。
 本件株主代表訴訟の訴状を拝読すると、取締役の善管注意義務違反による任務懈怠の責任を基礎づけるため、この指針の考え方が採用されているのではないか読めそうな箇所がいくつか目につく。もし、このような読み方を是とすれば、取締役の任務懈怠に、新たな類型が加えられることになる。
 ところで、本指針は取締役の善管注意義務の内容を明らかにするものではない。望ましい方向性を示唆するもので、これに従わなかったからといって、取締役の任務懈怠が問題になるものではない。今後、株主代表訴訟の審理の中で、MBOにおける取締役の善管注意義務の内容が議論されると思われるが、その中で本指針の果たす役割がどんなものになるか注目したいところである。(MBOにおける取締役の善管注意義務について検討した最近の論考として、十市崇「MBOにおける利益相反性の回避又は軽減措置」奈良輝久ほか編『最新M&A判例と実務?M&A裁判例及び買収ルールの現代的展開』223頁以下(2009年、判例タイムズ社)がある。)


 

 少し前、弁護士法人高橋総合法律事務所(大阪市西天満)において開催された「金融判例研究会」に出席した。検討の俎上にあがったのは、標題に関する最高裁判例3件、(1)最三小判平成21・4・14金判1319号20頁、(2)最二小判平成21・9・11金判1328号24頁(原審:大阪高裁判決)、(3)最二小判平成21・9・11金判1328号24頁(原審:高松高裁判決)で、報告は同事務所の中島亮平弁護士である。
 貸金業者の対顧客向け契約書には、約定返済を1回でも怠ったら、借主は期限の利益を喪失するという条項がある。いずれも事件もこの条項を前提にするものである。貸金業者としては、借主の期限の利益を喪失させ、いつでも一括返済を求めることができるような状態にしておきたいということであろう。ただし、一方で、借主において、約定通りの返済はできないが、返済額・時期など少しゆるめてもらえば返済できるというのであれば、貸主としてはこれを受け入れる。
 いずれの裁判も、以上ような状況の中で、借主が貸主に対して、利息制限法超過利息の過払金金請求などを行った場合、貸主が借主に、期限の利益を喪失を理由に、その時からの遅延損害金を請求することの是非が問題になったものである。判決の内容は、ごくおおざっぱな紹介であるが、(1)は、貸主が借主に対し期限の利益の喪失を宥恕し、再度期限の利益を付与した、(2)は、貸主が期限の利益を主張することが信義則に反し許されない、(3)は、貸主期限の利益を主張することが信義則に反し許されないとした原審の判断に違法がある、という。
 事実認定では、特に期限の利益を喪失時点以降の貸主と借主との間の個別事情が結論を左右することになると思われ、報告者も、個別事情の総合判断によることを原則とし、信義則違反の法律構成がより詳細な検討が可能という。
 私もこの結論には異論はない。ただ、「期限の利益の喪失」が信義則判断で動くという結果に実務が対応できるか問題が残る。しっかりした特約等で信義則判断に至るまでに問題解決を図るという対応が、これが可能であれば望ましいということになろう。

【1月27日追記】

同様の事案で、「貸金業者において期限の利益を喪失したと主張することは信義則に反し許されないとした原審の判断に違法がある」とする最高裁判決が紹介された(最三小判平成21・11・17金法1888号55頁)。

 

 河本敏浩「名ばかり大学生?日本型教育制度の終焉」(2009年12月、光文社新書)、海老原嗣生「学歴の耐えられない軽さ?やばくないか、その大学、その会社、その常識」(2009年12月、朝日新聞出版)、諸星裕「消える大学 残る大学?全入時代の生き残り戦略」(2008年7月、集英社)。連休中に一気読みをした3冊である。
 河本氏は、社団法人全国学力研究会理事長、東新ハイスクール講師、学力の問題をトータルに論じることができる方。海老原氏は、「週間モーニング」に連載の転職エージェントを舞台にした漫画「エンゼルバンク」に登場するカリスマ転職代理人・海老沢のモデル。諸星氏は桜美林大学教授、大学経営論の専門家らしい。

 河本氏の現状認識は、
 少子化の中で大学の定員増という現象。入学者層の低レベル化を招き、大学生の学力低下を招いてしまうのは自明のこと。
 以上は、海老原・諸星の認識とも合致する。

 卒業後の進路を意識した海老原氏の処方箋は、
 ?学生レベルの向上。少なくとも即戦力社会人としての養成。そのため大学を「補習の府」とする。中学生並みの社会常識と、ビジネスで使う学問を集中教育すべし。
 ?中堅・中小企業群への新卒就職の道を作る。そのため、「入ってダメでも、日本は20代に2回転職できる」という常識を学生に啓蒙し、また、中小企業の求人を紹介するインフラを拡充する。
 ?日本型雇用内での再チャレンジを生かすための学生・社会人の啓蒙。それは「組織風土」基本にした会社選び。すなわち、「就職より就社」運動。

 全入時代の大学の生き残り戦略を説く諸星氏の基本認識は、
 日本人としての一定の歴史観や価値観を持ち、社会の構成員として、また家庭人としての倫理観を持ち、幸せな生活を追求すべく努力する人々。日本社会の平均的構成員、社会の基本的勤労者。そのような幸せの追求に必要な知識や技量を身につけさせることも大学の大きな役割。その技量の基本になるのは、俗にいう読み書きそろばん。

 一般論としてみれば、上記の引用部分の所説は正当だろう。
 京都学園大学法学部の基本方針、共通目標は、「ビジネス法学教育」。ビジネス社会で現実に起きているさまざまな問題を前にして、よりよい解決の方法を考え出す。そのために必要な力を、基本のところから身につけていく。この方向感は、おそらく、海老原氏・諸星氏の説くところとそれほど隔たりはないと思う。
 これらの営みによって、大学生活4年間の間に学生達はどれだけ成長できるだろうか。難しい問題である。経験的にしか評価できないが、彼らのうちほとんどは、「社会人」としては、確実に成長していると思う。

 

 日本航空の法的整理が現実味を帯びてきたようである。
 たった今見ていたテレビ(World Business Satelite)で、JALのマイレージポイントが話題になっていた。日本航空の法的整理に伴いこれが失効するということになれば、かってない規模のものとなり、その影響は大きい。
 現在のところ、経済産業省のガイドライン(平成20年12月「企業ポイントに関する消費者保護のあり方(ガイドライン)」)が唯一のルールとして運営されているが、昨年成立した「資金決済法」の検討の中で、法律によるルール化が議論されたが、最終的に見送られている(高橋康文「資金決済に関する法律の制定とその意義」ジュリスト1391号17頁によれば、対価を得ずに発行されるポイント権利性も弱いと判断されること、その支払手段としての機能も限定的であることなどがその理由である)。
 その問題意識は、物品等との交換が可能とされていることから、一種の財産権として位置づけるのが適当とする考え方である。この立場から、電子マネーと同様の保護の仕組みが必要と主張されるのであり、現行制度のもとでは、引当金等の会計上の処理も併せて問題になる。これに対して、対価を払って発行される電子マネーとは異なり、事業者の販促手段、すなわち値引き・おまけ等に近いものとする考え方がある。
 World Business Sateliteでも指摘されていたが、相互提携によって網の目のように広がった「ポイント交換サービス」。これに着目すれば、無償で発行されたものであっても、一定の価値が認められるとして一種の財産権としての取扱いが適当と考えれば、電子マネーと同様の取扱いが考えられるだろう。
 いずれにしても、これを機会にもう少しきっちりした位置づけがされなければならないだろう。今後改めて議論が再燃することが期待される。

 

【1月20日追記】

 昨日19日、日航が会社更生法の適用を申請した。(1月19日リリース)

 本日の日経新聞によれば、マイレージは有効ということらしい。これについては、日航のマイレージだから特別な配慮がされるということではないかと推測される。

 今後の推移を注目したい。

 

 

 年末になって慌ただしく拙宅に配達された各法律雑誌の新年特集号は、民法改正の話題が満載である。それも、実務家諸氏が積極的に発言している。
 民法学者の手になる「民法(債権法)改正検討委員会」(鎌田薫委員長・内田貴事務局長)の提案が公表されたのが、NBL2009年5月1日号(504号)。その後、私がお付き合いさせていただいただけでも、私法学会・金融法学会・消費者法学会等で、それぞれの問題関心から議論され、多くの法律専門家の関心を集めた。
 なぜ今民法改正なのかという問題もさることながら、ここのところの各法律雑誌の実務家の議論は、法律専門家の間で関心を持たれていた民法改正の問題が、ひろく民法のユーザーサイドに広がってきたということであろう。今後の展開の中で、私も何らかの形で参戦したいと考えているが、当面は有識者諸氏の発言にしっかりと耳を傾けなければならないだろう。
 いつくか注目したい論考がある。
 そのひとつは、「企業取引から見た民法(債権法)改正 第1回 不実表示等と表明保証」で、森・濱田松本法律事務所の青山大樹弁護士・宇田川法也弁護士によるものである(NBL919号2009.12.15)。表明保証については、私の見解も公にしているところであるが、このように実務で広く定着している制度が、改正によってどんな影響を受けるか。この影響が実務にとって耐えうるものなのか、これらの検討が重要である。
 青山・宇田川論文では、この点について、消費者契約法の不実告知による取消し(4条1項1号)を一般ルール化とする《不実表示を意思表示の取消事由とする提案【1.5.15】》に注目する。表明保証違反が取消事由に該当することがあり得る旨が指摘され、これによって生じる影響を検討する。表明保証違反については、当事者の故意・過失等をその責任の成否に織り込んで判断することが行われていたところであるが、これら当事者の主観的態様を要件としない不実表示の規律が採用された場合、その及ぼす影響(M&A実務の混乱?)は少なくないであろう。
 今後じっくり検討したい。

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