金融取引をめぐる法の研究を生活の糧にしている今の立場からすれば、民商法はなじみ深い法律である。現に大学では、ほとんどの時間、「民法」と「会社法」で明け暮れている。しかし、民商法だけでは、金融取引をカバーするのは不可能である。種々の特別法が金融取引の実務に大きな影響を及ぼす。そのような法律の一つとして「犯罪収益移転防止法」がある。金融機関の本人確認やマネーロンダリング防止態勢は、この法律の規定による。
このうち、マネーロンダリング防止態勢について、犯罪収益移転防止法の規律は、金融機関がその業務において収受した財産が犯罪による収益である疑いがあると認められる場合に、金融庁にその旨の届出をしなければならないというものである。比較的単純な規律であるが、営業の現場で、届出を要する取引に該当するかどうかの判断は、実際問題として容易ではない。特にわが国の金融機関は、マネーロンダリング対策が脆弱との指摘をFATF(金融活動作業部会)の対日審査で受けており、体制の整備・改善は一金融機関の問題に止まらない。
このような現状を受け、「ファイナンシャルコンプライアンス7月号」(銀行研修社刊)が、マネーロンダリング防止体制の構築と営業店対応について特集を組むことになり、私もその一部をお手伝いさせていただくことになった。担当するのは、「マネーロンダリング『疑わしい取引』の類型と営業店実務の勘所」である。新規口座開設時、開設後の預金取引、為替・交換・外為取引時、融資取引などから、「疑わしい取引」の届出にあたっての判断に関連して、営業店の対応が問題になった事例をとりあげ、実務の指針を提示するものである。
すでに脱稿しており、ほどなく発刊されると思われるので、内容には触れないこととするが、かって金融機関に籍を置いた身からすれば、民商法の知識だけではカバーしきれない金融取引の大変さを思い知らされたかの仕事であった。







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