新聞紙上で大きく報道された事件である。つい先日、平成22年6月2日の福岡地裁の判決文(1) (2)が裁判所のHPに掲載されているのに気付いた。
問題になって会社(被告)は、不動産デベロッパーとして、マンションの計画から、土地所有者、金融機関、建築業者等との交渉、販売等を手掛けている。平成19年の建築基準法改正や原油価格等の原材料の高騰等によって、マンションの製造コストや販売に影響が出て資金繰りが悪化し、平成21年4月の新卒者の採用予定を、当初の11名から5名に減らす方針を決定した。そこで、平成20年9月に至って内々定を取り消すことを決定し、同年9月30日ころに、採用内々定の取消通知を送付した。該当の学生(原告)は、平成20年6月ころから、被告の会社説明会、適性試験、面接等を経て,7月7日ころに内々定が決定したので、第1志望である被告会社に就職すべく、その時点で就職活動を終了させていたのである。
以上のような事実関係のもとで、学生は、就職活動の再開を余儀なくされ、現在の就業先から採用内定を得るまでの約4か月間、不安定かつ過酷な状況に置かれていたことなどを理由に、原告が内々定取消しにより被った精神的損害100万円を損害賠償として請求し、福岡地裁はそのほとんどを認めた。原告学生が、被告会社に就労できることについて、強い期待を抱いていたことを前提に、被告会社の該当学生への説明、問い合わせ等への対応が不誠実であったこと、会社の採用方針変更の具体的理由が明らかではないこと、労働契約成立したと仮定した場合でも整理解雇が認められるような事情はないこと等を理由に、「被告の本件内々定取消しは、労働契約締結過程における信義則に反し、原告の上記期待利益を侵害するものとして不法行為を構成するから、被告は、原告が被告への採用を信頼したために被った損害について、これを賠償すべき責任を負う」と判示した。
内々定によって、学生と会社との間で「労働契約締結過程における信義則」の支配する関係が成立することを認めた点では、企業実務への影響(本件の被告会社のような対応はしないという意味で......)も考えられ、注目したい先例である。





