コンプライアンスの最近のブログ記事

 「暴力団排除条項」は、以前のエントリーで取り上げたことがあるが、最近読んだ、猪狩俊郎「激突! 検察、暴力団、弁護士会......タブーの権力と対峙した弁護士の事件簿」(2010/9光文社)に、「暴力団排除条項」のルーツが紹介されていた。
 著者の猪狩弁護士は、民暴対策に実績のある弁護士として、私も何冊かの著書を拝読させていただいたが、昨年8月、自殺の報道に接して驚いたことがある。

 「暴力団排除条項」のルーツとは、「後藤組組長に対するウェスティンホテル宿泊お断り事件」がそれである(157頁以下)。ホテルの総支配人が「なんとかお引き取り願いませんか。」と切り出したのに対して、くだんの組長、宿泊約款をぱっと開いて総支配人に示し、「暴力団員は宿泊禁止ってどこに書いてあるんだ。」と反論され、答えに窮してしまったという。総支配人の大変な努力で退去させることができたというものの、このような対応は誰にも求めることができない。このような事態に対して、現場対応のツールとして少しでも役立つことをねらい、当時第一東京弁護士会民事介入暴力対策委員会副委員長である猪狩弁護士によって、契約書・取引約款に暴力団排除条項を導入することが発案されたという。

 本条項の規定内容は、以前のエントリーで紹介したとおりである。今や、取引社会ですっかり定着したものになっており、その有効性についても疑問の余地はない。これが反社会的勢力との関係を絶つためのツールとして、現場対応の中から生まれ、定着していったものであることは、本規定を考えるにあたって重要と思われる。

 猪狩弁護士がどのような経緯で自死を選ばれたか知るよしもないが、本書を通してその生き方はある種の感動を覚える。私も、同世代を生きた1人として、心よりご冥福をお祈りしたい。

 新聞紙上で大きく報道された事件である。つい先日、平成22年6月2日の福岡地裁の判決文(1) (2)が裁判所のHPに掲載されているのに気付いた。

 問題になって会社(被告)は、不動産デベロッパーとして、マンションの計画から、土地所有者、金融機関、建築業者等との交渉、販売等を手掛けている。平成19年の建築基準法改正や原油価格等の原材料の高騰等によって、マンションの製造コストや販売に影響が出て資金繰りが悪化し、平成21年4月の新卒者の採用予定を、当初の11名から5名に減らす方針を決定した。そこで、平成20年9月に至って内々定を取り消すことを決定し、同年9月30日ころに、採用内々定の取消通知を送付した。該当の学生(原告)は、平成20年6月ころから、被告の会社説明会、適性試験、面接等を経て,7月7日ころに内々定が決定したので、第1志望である被告会社に就職すべく、その時点で就職活動を終了させていたのである。
 以上のような事実関係のもとで、学生は、就職活動の再開を余儀なくされ、現在の就業先から採用内定を得るまでの約4か月間、不安定かつ過酷な状況に置かれていたことなどを理由に、原告が内々定取消しにより被った精神的損害100万円を損害賠償として請求し、福岡地裁はそのほとんどを認めた。原告学生が、被告会社に就労できることについて、強い期待を抱いていたことを前提に、被告会社の該当学生への説明、問い合わせ等への対応が不誠実であったこと、会社の採用方針変更の具体的理由が明らかではないこと、労働契約成立したと仮定した場合でも整理解雇が認められるような事情はないこと等を理由に、「被告の本件内々定取消しは、労働契約締結過程における信義則に反し、原告の上記期待利益を侵害するものとして不法行為を構成するから、被告は、原告が被告への採用を信頼したために被った損害について、これを賠償すべき責任を負う」と判示した。
 内々定によって、学生と会社との間で「労働契約締結過程における信義則」の支配する関係が成立することを認めた点では、企業実務への影響(本件の被告会社のような対応はしないという意味で......)も考えられ、注目したい先例である。

 金融取引をめぐる法の研究を生活の糧にしている今の立場からすれば、民商法はなじみ深い法律である。現に大学では、ほとんどの時間、「民法」と「会社法」で明け暮れている。しかし、民商法だけでは、金融取引をカバーするのは不可能である。種々の特別法が金融取引の実務に大きな影響を及ぼす。そのような法律の一つとして「犯罪収益移転防止法」がある。金融機関の本人確認やマネーロンダリング防止態勢は、この法律の規定による。
 このうち、マネーロンダリング防止態勢について、犯罪収益移転防止法の規律は、金融機関がその業務において収受した財産が犯罪による収益である疑いがあると認められる場合に、金融庁にその旨の届出をしなければならないというものである。比較的単純な規律であるが、営業の現場で、届出を要する取引に該当するかどうかの判断は、実際問題として容易ではない。特にわが国の金融機関は、マネーロンダリング対策が脆弱との指摘をFATF(金融活動作業部会)の対日審査で受けており、体制の整備・改善は一金融機関の問題に止まらない。
 このような現状を受け、「ファイナンシャルコンプライアンス7月号」(銀行研修社刊)が、マネーロンダリング防止体制の構築と営業店対応について特集を組むことになり、私もその一部をお手伝いさせていただくことになった。担当するのは、「マネーロンダリング『疑わしい取引』の類型と営業店実務の勘所」である。新規口座開設時、開設後の預金取引、為替・交換・外為取引時、融資取引などから、「疑わしい取引」の届出にあたっての判断に関連して、営業店の対応が問題になった事例をとりあげ、実務の指針を提示するものである。
 すでに脱稿しており、ほどなく発刊されると思われるので、内容には触れないこととするが、かって金融機関に籍を置いた身からすれば、民商法の知識だけではカバーしきれない金融取引の大変さを思い知らされたかの仕事であった。

 

 

 

 昨日30日は東京出張。金融機関のコンプライアンスに関係する問題について、地方銀行のご担当の方々、弁護士、監査法人のリスクマネジメントを専門にするコンサルタントの先生方とほぼ1日にわたって議論した。帰りの新幹線の中でチェックした商事法務のメルマガ経由で、同じくコンプライアンス問題である工事請負契約約款等へ組み込むことになる「暴力団排除条項に関する参考例(ひな型)」が日本建設業団体連合会から公表されたのを知った。

 この問題については、平成19年6月19日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」の決定が本格的取り組みの発端であったと思う。金融機関では、金融庁の監督指針の改定を経て、銀行取引約定書に規定する暴力団排除条項の参考例が平成20年11月25日付で全銀協から公表され、今やほとんどの金融機関で採用されている。契約当事者間の約定によって、反社会的勢力の排除を図るもので、この点は日本建設業団体連合会の参考例も同様である。(なお、全銀協は、平成21年9月24日に、普通預金取引・当座勘定取引・貸金庫取引についても、同様の措置を提案している。)
 しかし、両者いくつかの点で違いがある。例えば、全銀協の銀行取引約定書では、取引先または保証人に反社会的勢力の属性要件に該当しないことおよび行為要件に該当することを行わないことを表明・確約させ、これに反した場合は銀行の請求により貸出金の期限の利益を失う旨を規定する。これに対し、日本建設業団体連合会の工事請負契約約款では、反社会的勢力の属性要件または行為要件に該当することを請負契約の解除事由とする。
 具体的運用場面でどのような違いが生じるか、それぞれの条項の法的効果の問題として検討が必要と思われるが、他日を期したい。

 

 最近のトヨタの一連の事態に対する対応は、危機管理広報のモデルケースとして、今後取り上げられることも多いだろう。2月24日午後(日本時間25日早朝)に行われた豊田章雄社長の米下院監督・政府改革委員会の公聴会での証言はこの問題に対する一つの節目になろう。
 社長証言は、報道によれば、まず、実際の起こったトヨタ車の事故(安全問題)について謝罪し、問題の焦点になっている電子制御システムについては、「これまでの調査では......」という限定つきながら、問題はない旨を明言する。そして、安全問題などを引き起こした原因は成長のスピードに人材の成長が追い付かなかった点をあげ、再発防止のための体制を整備した旨を明らかにする。
 危機管理広報については、少し古い書物であるが、中島茂『その「記者会見」間違ってます!』(2007年、日本経済新聞)がある。同書によれば、「対応は、『謝罪』『原因究明』『再発防止』の三点セットで......」が強調されており、トヨタの対応はそのセオリーどおりである。それもトップがしっかりとリーダーシップをとり、その顔が見える形で対応され、責任の所在がはっきりしている。並の企業ではここまでやるのは難しいだろう。
 マーケットの評価を反映する株価はおおむね合格点を出しているようである。ただ、今回の対応は、一連の問題の端緒に過ぎない。今後、どのような着地点を見つめていくか、注目したい。

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